2004年02月09日 月曜日
栗本 薫 / グイン・サーガ93「熱砂の放浪者」
週末に発売されていたのではないかと思うが、今日購入。早速読了。しばらく中原を離れて魔道めいた辺境の旅と言うことで、ようやく引っ張るだけ引っ張ったグインの自分を捜す旅がスタートと言うことでしょうか。92巻の感想に書いたような展開でなかなか嬉しい。
今回はやたら感慨めいた回想シーンが多く退屈なところもあったが、グインがたびたび窮地で信じられないような瞬間移動をしていることに関して、グラチウスが「体中に古代機械のようなものを内蔵しているのではないか?」と言うと、「実際に瞬間移動できるかどうか試したができなかった」なんて言うやりとりがあって、グインの妙な悩みが垣間見えて面白い。あとカナン帝国の滅亡に関しては外伝の「蜃気楼の娘」に描かれているが、この世界の黄金律を影ながら支配(?)しているであろう存在である『調整者』の存在に対して、グラチウスが、
「わしは人間存在を越えるほどの偉大な魔道師になりはてた『闇の司祭』ではあるが、それでも人間のはしくれじゃからな」グラチウスはいつになくまじめに言うのであった。「わしはそのような可能性について考え始めたとき、なにやら非常に面白くない気持ちがしたのだよ。それから、わしは気づいた。なぜ面白くないのか、なぜ、これはゆゆしき自体だ、どうあれこれをこのままに捨てておくわけにはゆかん、と言う気持ちがするのか。それはこの世界は人間の世界であり、わしは人間であり人間の中では一番偉いにしたところで人間であり、そしてこの世界を作ってきたものも人間に他ならないからだよ。たとえどれほど我々の文化が稚拙な、幼稚な原始的な段階にいようと、我々はその中で、生きたり死んだり、喜んだり悲しんだり愛したり憎んだりしてきたんだよ。それを『上』から、どのくらい上だかしらんがそこから見下されて、なんだかんじゃと『調整』されたり、『管理』されたりすることなど、まったく余計なお世話じゃろ。たとえ我々がいかに『彼ら』から見ておろかであろうとも、われわれにはわれわれの生き方があり、そしてわれわれの範囲でできうる限り、何とか賢くなろうとか、偉大になろうとか、苦闘を繰り返しておるんじゃからな。あるいはその結果悲しくもこの世界が滅びてしまうかもしれん、我々はおのれの愚かしさのために、先祖代々受け継いできたこの世界を滅ぼしてしまうようなことになるかもしれん。だが、それにしても、それはそれじゃろ。そして我々にはそうやっておのれの愚かしさのあまりに世界もろとも滅び去ってしまう権利だって、ちゃんとあるんだよ。おのれの賢さでより高き世界にたどり着く希望と同様にな。」
と言う話をする。グインサーガにおける『闇の司祭』グラチウスの役回りはこの世には巨大すぎるグインの持つ力をおのれの私利私欲のために使うためにグインをつけねらう悪役の筆頭であり、この世では_3大魔道師_の一人という巨大な力を持つ存在であると思っていた。が、この役回りのせいか、人としての存在を捨て去って別の存在と化した『大魔道師』アグリッパや入寂してしまった『北の見者』ロカンドラスと異なって、俗世に関わる人の代表としての意見を言えるのかもしれない。(その辺が、アグリッパやロカンドラスに言わせれば、「まだまだ青年の如く若造なのよ」と言うことになるんだろうが…) 珍しく見識のある意見かもしれないし、栗本さん自身のこの世界に対する意見なのかもしれない。
今回はついにしばらくぶりの登場となる○○○○○○(伏せ字にしておこう)も出てくるし、いよいよグインサーガも佳境に突入と言うことで、次巻以降がまたまた楽しみなのである。