オートフォーカスとレンズの明るさの関係

明るいレンズを使っている人で、**「明るいレンズほど暗所でオートフォーカスがしやすい」**という人がいるのだが、本当であろうか? カメラのスペック表を見るとオートフォーカスが可能である輝度範囲は書かれているが、そのときに前提となるリファレンスレンズやISO感度が書かれている訳ではない。なぜだろうか? レンズの明るさはF2.8センサを選ぶかF5.6センサを選ぶかの差しかないというのが正解なのだが、実験をしてみよう。

オートフォーカス(AF)一眼レフカメラにおいて使われているAFセンサはTTL位相差検知方式のセンサで、基線長の差によってF2.8センサとF5.6センサが良く用いられている。前者はF2.8よりも明るいレンズで測距にF2.8の光束を用い、後者ならF5.6の光束を用いる。したがって原理的にはF5.6センサよりはF2.8センサの方が精度が良く、F2.8より明るいレンズはどのようなレンズでもAF時にはF2.8の光束しか使っていないためレンズの明るさはF2.8より明るくてもAFの精度、測距できる輝度範囲は変わらなさそうである。実際測距する物体の輝度には依存しているが、レンズの明るさには関係ないとは感覚では理解していたが、正確に試したことはない。
以前使用していたEOS D30と言うカメラは低照度時のAFが非常に弱いカメラで、そのとき測距輝度範囲に関する調査をしたことはあったが、低照度域でレンズの明るさによる測距可能範囲の差は見ていないなかったので、興味深かったので実験してみた。 陽が落ちると家の中は低照度のものばかりなので、簡単にテストできる環境にある。被写体AとBはレンズによらずほぼ同一。(三脚は使っていないが、測光の再現性は1/3絞り未満の誤差ではあるものを選んでいる。) 使用したカメラはEOS 5Dなので、カタログ上の測距可能輝度範囲は-0.5~18EV、測光可能範囲が1~20EV。測距点は中心のものを使用し、露出値はスポット測光した結果の生値である。

  • 50mm F1.4の場合
    • A: AFが可能 シャッター速度0.6秒 絞りF1.4 ISO100 => 0.6EV
    • B: AFが不可能 シャッター速度1.6秒 絞りF1.4 ISO100 => 0.3EV
  • 70-200mm F4の場合
    • A: AFが可能 シャッター速度8秒 絞りF4 ISO100 => 1EV
    • B: AFが不可能 シャッター速度13秒 絞りF4 ISO100 => 0.3EV
      AFができるかどうかだけの結果なので、実際にピントが来てるかどうかは実写していない。Bの方の測光値は測光範囲外なのでエラーがあるものと思われる。測距輝度範囲を正確に出すにはスポット測光ができる外部測光計が必要であるが、今回の実験はほぼ同一の輝度で測距ができなくなっているので、測距する物体の正確な輝度は問わなくても良いだろう。(そのため実際はもう1段くらいは暗いと思われる。) 純粋にAFができるか否かは、開放値が異なるレンズでは差はほとんどないため、明るいレンズを導入することによってAFできる場合が広がるというのは、誤解である。
      しかし明るいレンズの意義はAFに有利不利と言うことではないが、構図を決めることが可能か否かという点で非常に大きい。上記のAF不可能であった輝度の被写体はF1.4のレンズでは目視と変わらない印象であるが、F4だとその場で濃いめのサングラスをしてみるようなイメージになるので、ファインダーは真っ暗となってしまう。そのためその場で構図決定ができるかどうかと言う点が大きく違う。またそのことに付随して明るいレンズではファインダーが明るいことから、AFをするためのおおざっぱのピント合わせと測距する物体を選びやすくもなる、ぎりぎりの場面でのAFのアシストには十分に明るいレンズは役立つものと思われる。(むろん測距できない可能性はあるが。)